母の命日

今日は、母の命日だった。

 

母は故郷の病院のベッドの上で亡くなった。

あれから今日でちょうど6年が経つ。

 

時間というものは、とても不思議だ。

6年という歳月は今振り返ると、とても長かった気もするし、あっという間に過ぎていったようにも思える。

 

母の墓は、故郷の街を一望できる高台にある。

小高い山の中腹にある、広々とした墓地に母は眠っている。

そこは、街を端から端まで見渡すことのできるほどの眺めのいい、穏やかでとても気持ちのいい場所だ。

 

そこは、桜の名所になっていて、春になると満開の桜で辺りの風景は一面白一色となる。

夏には、きらめく陽の光の中、林に囲まれたそこには爽やかで涼しい風が吹き渡る。

秋には、山全体が真っ赤な紅葉に鮮やかに包まれる。

そして冬には、どこまでも真っ白な雪景色が広がった。

 

今頃は、その山も頂上から麓までが、すっかり白く美しい雪化粧に変わっていることだろう。

 

私にとって自分の人生を語る上で、母の存在は欠かせない。

私と母は、深い深い運命で結ばれていた。

 

ちょうど6年前の夜、私は亡くなったばかりの母の手を、両手でずっと握りしめていた。

その時の母の顔を、私は決して忘れることはないだろう。

母の顔は、いつでもとても穏やかでやさしかった。

 

私は、母にずっと愛されてきたこと、そのあたたかな愛に包まれていた日々を思い出した。

母は、いつも私を見ていてくれた。

ありのままの私を愛してくれた。

 

母と一緒にいた時は、どんな時も心が安らいだ。

毎日が喜びに包まれていた。

 

そして、ふと気づくと、私は、母と自分との悲しい運命を思い出していた。

 

去年、私は、母の墓参りのため故郷に帰った。

久し振りの母の墓の前で、涙が止まらなかった。

 

私はきっと、これからもまた、母に会いに故郷に行くだろう。

その度に大きな自分になっていたい。

その度に私は、自分を産んで育ててくれた母に、成長した自分の姿を見せたい。

心からそう思った。

 

それこそが、自分なりの母への恩返しだと思っている。

母が望んでいることは、家族一人一人が救われることであり、幸せになることだ。

母を大切に思うということは、きっとそういう母の気持ちを大切にすることなのだろう。

 

信州は今頃、雪だろうか。

母の眠る小高い山にも、雪が降っているだろうか。

 

白い雪は舞い降り、果てもなく降り続き、しんしんと静かに一面に降り積もって、いつかこの運命を、その中にそっとうずめてくれるだろうか。

 

私は今日一人、心の中で母に伝えた言葉があった。

それがどんな物語であったとしても、私は、あなたと出会えて心から幸せだった、と。

2 母への手紙 ~運命の終わりに~

親愛なるおふくろへ

 

あなたが突然亡くなってから、もう6年が経ちます。

あなたが亡くなってから、おれは長野を出ました。

今は東京で暮らしています。

 

おれはずっと過去から逃げてきました。

でも、最近やっと冷静に過去のことを振り返ることができるようになりました。

 

あなたはおれを産んでくれた時、その時の輸血がもとで癌になり、多くの痛みと苦しみを背負いました。

さらに長年に渡るおれと父との争いが、あなたの死期を早まらせてしまったのかもしれません。

 

おれと父が、やはりあなたを死へと追い詰めてしまったのでしょうか。

あるいは、やさしいあなたのことですから、自分の介護のことでこれ以上迷惑をかけたくないと思ったからでしょうか。

あるいは、おれたちの骨肉の争いに疲れてしまったのでしょうか。

それとも、これ以上つき合うのはかえって二人のためにならないと思ったからでしょうか。

 

そしてあなたは、やはり家族に迷惑がかかると、誰にも何も言わず死んでいきました。

文句一つ言わず家族のために尽くしたまま、亡くなっていきました。

 

おれはあなたにとって、あまりいい息子ではなかったかもしれません。

おれはずっと自分の心の中にあった葛藤のために、あなたを傷つけていたのかもしれません。

おれはあなたからもらった限りない愛のうち、どれくらいあなたに返してあげられたのでしょうか。

 

でもきっとあなたが今ここにいたら、どんなことを言うのか、おれにはわかります。

お前はいつも私にやさしかったと、あなたが心から言ってくれることを知っています。

 

結局、おれはあなたの命を救えませんでした。

そして、痛みと苦しみの中にいるあなたのことを、楽にしてあげることもできませんでした。

 

あなたが亡くなってから、おれはすべての希望を失ってしまいました。

自分が生きていく道を失ってしまいました。

 

でも、随分長い時間がかかりましたが、今やっとおれの中で過去が終わろうとしています。

過去がどんなに苦しくても、やりきれなくても、暗いトンネルから出る時が来たのだと思っています。

 

自分自身もう十分苦しんだと思っています。

だから、もうおれは自分を苦しめるのをやめようと思いました。

そうでなければ、あなたが亡くなっていった意味がなくなる気がするから。

これからは、もう精一杯自分のために生きていこうと思っています。

 

過去は終わりました。

あなたのあの時の痛みも、苦しみもすべて終わりました。

そしてあの時のあなたとおれとの悲しい運命も終わりました。

 

だから、おれは時々思い出すことがあっても、もうあの頃への執着を手放します。

そしておれは、今度は自分のために幸せな未来を描いていくつもりです。

きっとこうなることこそ、あなたのおれへの一番大切な願いだったような気がします。

 

いままでおれのことをずっとずっと愛してくれて、ありがとうございました。

おれのこと産んでくれて、ありがとうございました。

おれは、あなたのことをずっとずっと忘れません。

 

本当に、本当にありがとうございました。

 

最後に、

 

あなたは最高の母親でした。

 

 

あなたを愛する息子より

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